よくある誤解 / 32
作品を参照(リファレンス)としてAIに入力するのは、学習?
参照としての入力は、学習ではありません。
もう少し詳しく
参照としての入力は、学習ではありません。 文章や画像を生成の指示と一緒に渡すと、AIはそれを手がかりに出力を作りますが、モデルの重みは変わりません。手元の絵の道具で画像を開くのと同じく、入力は作る前の準備です。法律の整理でも、入力は開発・学習の段階ではなく、生成・利用の段階の行為として扱われています。問題になりうるのは、作ったものを公開するときに、既存の作品に似ている場合です。
なぜ学習と別なのか
画像では、Diffusersの公式の説明が、画像から画像を作る処理を、プロンプトに加えて初期画像を渡し、拡散の出発点にするものと説明しています(仕組みは解説05)。人物や画風の参照によく使われるIP-Adapterも、公式の説明では、学習済みのモデルを固定したまま参照画像で生成を導き、ファインチューニングなしで被写体や画風を合わせる仕組みです。
文章では、言語モデルに例や資料を示して課題を解かせる使い方について、GPT-3の論文が、勾配の更新もファインチューニングもせず、課題と例はモデルとの文字のやりとりだけで示す、と書いています。「文脈内学習」と呼ばれることがありますが、モデルの重みは変わりません。
法律の整理では、文化審議会の「考え方」が、生成の指示のための入力を、生成・利用段階の論点として扱っています。入力は情報解析として30条の4の適用が考えられること、入力した作品に似たものを作らせる目的なら30条の4は適用されないこと、その場合も私的使用目的の複製(30条1項)などの権利制限規定が適用されうること、生成と利用は行為ごとに検討することが書かれています。自分で楽しむために本文を貼って別の版を書かせる、キャラクターの絵を見せて挿絵を作る、といった使い方は、学習ではなく、公開しない限り許諾を前提にしていません。
公開するときは、AIを使わない創作と同じく、既存の作品との類似性と依拠性で侵害かどうかが判断されます。入力に使った作品は依拠の手がかりになりうるので、公開するなら、その作品の決まり(ガイドライン)に従い、似すぎていないかを確かめます。
AIサービスやアプリが特定の入力や生成を断ることがあるのは、それぞれの方針や利用規約によるもので、入力そのものを法律が一律に禁じているからではありません。「考え方」は、事業者が既存の作品の類似物の生成を防ぐ措置をとっていれば、事業者が侵害の主体と評価される可能性は低くなる、と整理しています。
この説明で言えないこと
入力して作ったものを公開してよい、とは言えません(解説31)。サービスが入力を保存し、後で学習に使うかどうかは、サービスごとの設定と規約によります(解説14)。IP-Adapterのような参照の部品そのものは、開発者が事前に学習させたものです。ここで言えるのは、利用者が参照を渡す行為がモデルの学習ではない、ということです。日本の外の法律は確かめていません。
一次資料のどこに書いてある?
- Diffusers公式Image-to-image・IP-Adapter:各ページ冒頭の説明(2026-10-27参照)。技術上の根拠です。
- BrownほかLanguage Models are Few-Shot Learners(2020、arXiv:2005.14165):Abstract。GPT-3の評価での使い方の説明で、すべてのサービスの実装を示すものではありません。
- 文化審議会法制度小委員会『AIと著作権に関する考え方について』(2024-03-15):本文pp.37–38「ク 生成指示のための生成AIへの著作物の入力について」「ケ 権利制限規定の適用について」、pp.31–32(生成・利用段階の類似性と依拠性)、pp.36–37(侵害の行為主体と事業者の措置)。公的な解釈資料であり、裁判所を拘束する判決ではありません。
- 著作権法:30条1項、30条の4、49条。2026-10-27に公式の条文データで確認。